第2話。〜雪永吹雪
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君もいよいよネジュ島の物語のスタート地点に来たわけだ。
君覚えてる?このネジュ島の学校の長…雪永雪雄を。そうそう覚えてくれてるね。5人の子供がいるんだ。
この物語において、確実に知っておかなければならない人物が、雪永学園の園長の長女、雪永吹雪だ。
ネジュ島に入島する時の面接官でもあるから、
雪永雪雄に続き、吹雪を知らない人はこの島にはほとんどいない。
島にいる人々の管理や、雪永家の家事、学園の経理、生徒会長をもこなす完璧で島1の美人だ。
君、プリチャン見てくれた?プリチャンって何かわかったかい?わかってくれたなら話は早い。
雪永吹雪は、ネジュ島の看板プリチャンアイドルだ。
ネジュ島の良さ、ここに住んでるものたちのきらめきを伝えたくて、プリチャンを始めたんだ。
彼女はアイドルを自らするだけでなく、アイドル事務所の経営もしてるんだ。
ネジュ島の中で、プリチャンをする時は、吹雪に頼むか、スカウトされて配信を頼まれるかのどちらかなんだよ。
アイドル事務所の名前は、「snow family」。興味があったら寄ってみるといい。駆け出したばかりのアイドルたちがきっとたくさんいるだろう。
そして吹雪は他の妹弟たちと、「snow fantasy」というグループを組んでいる。
このsnow fantasyというグループは、ほんとにみんなを惹きつけるんだ。配信は不定期だけど、住民みんな配信されると、釘付けになって見るんだよ。
さぁ、ページをめくってごらん。
雪永吹雪の所へきっと行けるだろう。
…。
ページをめくるとまばゆい光が私を包み込み、私は思わず目をつぶった。そして目を開けると、そこはあの雪永学園の正門の前だった。
正門の前では、白髪のポニーテールのお姉さんが、挨拶をしていた。
「おはようございます!今日もお勉強がんばってくださいね!」
お姉さんが声をかけると、みんながはーいと言いながら玄関に向かっていく。
私は、ネジュ島の雪永学園に来てしまったらしい。
しかしどうやら私の姿はあろうことか、透明のようで、誰にも見えていないみたいだ。
そのとおり!!君はこの物語の続きを読むためにこの世界に透明人間として入り込んだんだ。夜になって眠ると元の世界に帰れるぞ。
どこからかナレーターの声が聞こえる。
そうだ、君にプレゼントがあるんだよ。
光に包まれた私の手の上には、ピンクの携帯のようなものが乗っていた。
それは、プリチャンキャスト。プリチャンアイドルたちの配信が見れるんだ。それに、君にあげたのは特別なもので、この物語の解説もしてくれる。
とりあえずそこのお姉さんをそのキャストで観察してみてくれ。
私は言われるままに、キャストを開けて、お姉さんの方向を覗いてみた。
「ユキナガ フブキ 22サイ。ユキナガガクエンセイトカイチョウ。カンペキクールサイジョ」
なるほどこれはプリチャンアイドルを知らない私にはぴったりの代物だ。
さあ、これでもっと物語を楽しめるね。
君はここの世界では、願えさえすれば、空も飛べるし、海の中でも息ができる。たくさん楽しんで帰ってきてくれ。
ナレーターさんありがとうと心の声が呟くと、もうナレーターの声は聞こえなくなっていた。
とりあえずこの目の前にいた完璧クール才女を観察していると、ある程度生徒たちが学校に入っていくと、学園長室に戻り、たくさんの書類を処理して、また生徒達の帰る時間には玄関に出て、さようならと声掛けていた。
「スゴク ツカレテイル」
突然私のプリチャンキャストが、雪永家の長女を照らし、呟いた。
だろうなと思う。
ほとんど休まずに何かをしている。
学校での業務がある程度終わると、雪永学園の近くに建ってる豪邸の自宅に戻り、家族みんなの洗濯をし、料理をして他の4人のきょうだいとご飯を食べていた。
「ふーちゃん!きいてよ!ぎんちゃんたらひどいんだよ!またあられのばかっていってきたの!」
「ちがうんだよ、ふぶきねえ!それはあられがテストで20点とったから!」
「あ!それはふーちゃんには内緒って言ったのに!」
「ふぶきちゃん…具合悪いの…薬どこにあるかわかる?」
「ふーねえ、ぼくこのお洋服欲しいんだけど、似合うかな?」
賑やかな食卓では、きょうだいたちみんなが、吹雪に自分の話を聞いて欲しいという気持ちが伝わってきた。
「霰はきょうだい唯一お勉強ができないものね…仕方ないわ、今日帰ってきたらテストの見直しを一緒にしましょう。」
「銀雪…正義感が強すぎるのよ。ほんとは霰のこと好きなんだから、もう少し優しくしてあげてよ」
「雪華、大丈夫?無理しなくていいのよ…。薬は隣の部屋の青い棚の引き出しに入ってるわ」
「霧雪ならなんでも似合うけど、この服はダントツで似合うわね!」
吹雪は、疲れているはずなのに、笑顔できょうだいたちの話に返事をし、自分の車にきょうだいたちを乗せいてく。
きょうだいを乗せた車を運転してしばらく経つと、snowfamilyと書かれている事務所に着いた。
「ネジュトウ ユイイツ プリチャン ハイシン デキル バショ ユキナガフブキガ ケイエイシテイル スノウファミリー」
なるほど、ここがあの噂のアイドル事務所らしい。
吹雪が鍵を開けると、待ってた若者たちが事務所内に入って行った。
みんなそれぞれ思い思いの場所で配信の相談をしている。
あのきょうだいたちも、なんの衣装を着て、なんの曲を踊るか、フォーメンションをどうするか等、話し合っていた。しかしそこには吹雪の姿は無かった。
「ユキナガフブキハ カンケイシャシツニイル」
何をしているか見るために私は関係者室に入った。
そこには、倒れている吹雪がいた。
助けたいが私は透明人間。どうしようか悩んでいると、呼びに来たきょうだいたちがドアを開けた。
「ふーねえ!!!!」
「ふぶきちゃん倒れてる!」
「ふぶきねえ!」
「ふーちゃん!!!」
4人のきょうだいが声をかけると、吹雪はゆっくり起き上がった。
「ごめんね、ちょっと疲れてたみたい…。ふらっとして気がついたら意識なかったの」
「大丈夫なの!?」
三女が話しかける。
「配信はいつも通りやるわ。平気よ。明日の配信まではパパに頼んで休ませてもらうから」
「ふぶきちゃんがそう言うなら…でも無理しないでね」
「ええ、ありがとう。みんな準備はいい?私が1曲目を担当するわ。その後は任せるわね。」
それぞれのプリチャンキャストに
雪永吹雪の配信の様子が流れた。
もちろん、私のものにも送られてきた。
白い髪の毛に似合う、真っ白なワンピース。
雪上のお姫様のように、舞い踊る吹雪を見て、
これは美しいと感動した。
(私は、家族みんなが笑顔で元気に一緒にいることが1番の幸せ…そんな素敵な家族をみんなに見て欲しい。そして幸せにすごしているこの島をたくさんの人に知ってもらって、ここに来てもらいたい。だから配信をするの。そんなこと誰にも言わないけど…)
配信されたプリチャンから、
吹雪の心の声がプリチャンキャストを通して
聞こえてきた。
吹雪の心の声の通り、家族のための想いが詰まった吹雪の配信は、純粋な雪のきらめきのように美しかった。
私はきょうだい5人が配信を終えて車に乗り込むのを見送ってから、そのままsnow familyの事務所内で眠りについたのだった。