第3話。〜雪永霰
やあ。おはよう。初めてのプリチャンの世界はどうだったかな。雪永吹雪の想いを知ることが出来て、少しは興味が湧いただろう。
私はナレーターさんの声に頷いた。
まだ他にもきょうだいは4人もいるんだ。
今日は違うきょうだいを見てきてほしいと思う。
そうすればもっとプリチャンを好きになれるから。
昨日したように、本の新しいページをめくると、まばゆい光に包まれる。
いってらっしゃいというナレーターさんの声がどんどん遠くなるにつれて意識も遠のいた。
…。
目が覚めるとそこは、雪永家のリビングで
ちょうど、きょうだいたちが学校に行こうとしている所だった。
だが1人だけ学校に行く用意をしていない子がいた。
「じゃあ、霰お留守番頼むわよ」
「うん!ふーちゃん無理しないでね!」
「ばかあられ!泣くなよ!」
「ぎんちゃんひどい!泣かないし!」
「あーちゃん、かえってきたらぼくとあそぼ」
「うん…むーちゃんは優しいね」
「あられ、これおすすめの保湿用クリーム使ってみて」
「わぁ…せっちゃんありがとー!」
霰と呼ばれる彼女はどうやら今日は学校には行かないらしい。他のきょうだいたちひとりひとりと挨拶を交わして、玄関まで見送るようだ。
「みんないってらっしゃーい!」
「ユキナガ アラレ ユキナガケ サンジョ 16サイ ゲンキニミエル ガ アルビノ 二 ヨッテ ナカナカ ジュギョウ二 デラレナイ」
アルビノとは一体なんだろうか。
プリチャンキャストで調べてみるとすぐに出てきた。
遺伝子の変異の一種で、生まれつき体中が真っ白である。アルビノの人の日焼けは火傷になり、更に視力もかなり悪い。
対策を練れば外に出ることも出来るし、視力も全盲なわけではないため、生活に不自由は生じても、一般人と同じ生活をすることは不可能ではない。
とのことだ。
「キノウ ノ ヒヤケ ガ イタム メガクラクラスル 」
プリチャンキャストはきっと、今の霰の気持ちを教えてくれたのだろう。
いつもより何か体調が芳しくない様子だ。
「せっちゃんがくれたクリーム塗ってみよっと!」
しかし彼女は明るく、前向きに今日を過ごすらしい。
鼻歌を歌いながらご機嫌に保湿クリームを塗り終えた霰は、雪永家の中にあるダンススタジオに入っていった。
「学校を休んでも、1回くらいは踊らないと…鈍っちゃう!プリチャン頑張るんだから!」
そう呟いた霰は、1人でダンス練習をし始めたが、1曲踊り終わった直後、イテテと言いながら部屋を出ていった。
アルビノは、視力がかなり悪いと言われる。
その中には単純に、前が見づらいだけじゃなく、
揺れているように見える場合もあるらしい。
そんな状態ではなかなかにダンスを踊るのはきついのだろう。
ダンスをやめた霰は次に、部屋の机に何やら向かっていた。
どうやら勉強をしているらしい。
「今日の範囲はここで…多分宿題がここらへんになるかな…」
今日休んだ分を自分で勉強しているようだ。
大変偉いと思ったのもつかの間、
「みえなーーーい」と大きな声を出しては、
ベッドに入り込んでしまった。
「あられ…日焼けが痛くて学校行けないし、目が悪くて勉強1人じゃできないし、日頃から運動不足だし、勉強も遅れてるし、あられなんか…あられなんか…」
霰はベッドの中で泣いているようだった。
きょうだいたちの中では1番元気で明るい性格の彼女は、本当はたくさんの悩みやコンプレックスを抱えているらしい。
「でもぎんちゃんに泣かないしって朝言ったし…何もしないまま1日が終わるのは嫌だ…」
なんとか泣き止んだ霰は、キッチンに立った。
「あられが唯一できること…それはお菓子作り。みんなのためにクッキーを作っちゃお」
徐々に笑顔を取り戻し、美味しそうなクッキーを見事に50個くらいは焼いただろう。
満足そうな霰を見て私もなんだか笑顔になってしまう。
「「ただいまー」」
「あっ!ぎんちゃん!むーちゃんおかえり!」
「あーちゃんクッキー焼いたの?食べていい?」
「うん!食べて食べて!」
「おいあられ」
「なに?ぎんちゃんこわいよ…」
「お前、泣いただろ」
「へっ?なんで分かるの」
「分かるから」
「理由おしえてよー、もうー。でも、やっぱぎんちゃんにはお見通しだね…」
銀雪が言葉では冷たくしていても自分を理解してくれているという点で、霰にとって安心できる存在のようだ。
「あーちゃん寂しかったの?ぼくがぎゅっとしてあげる」
霧雪もそう言うと、霰を優しく抱きしめたのだった。
そうしている間に吹雪も帰宅し、
霰のクッキーを1枚食べて、
味を褒めて、今日の授業のプリントとノートのコピーを解説しながら見せた。
最後に雪華が帰ってきて、塗りきれてなかった背中の部分に保湿クリームを塗ってあげる。
雪永家は霰以外の4人ともが、文武両道であり、
霰だけが勉強も運動もできないということは、まだそんなによく知らない私からしてみても一目瞭然だった。
だが、そんな彼女は1番のムードメーカーで
雰囲気をガラッと明るくする
愛されキャラだと分かる。
自然と皆が霰のできない部分を補うように、
霰の為に動いている。
霰もまた皆のために頑張ろうとしているのだ。
「あっ、あのね!今日学校休んじゃったから、1曲目は1人であられがやりたいの…」
「いいわよ。みんなもOKね」
吹雪が聞くと、3人がもちろんと言った顔で返事した。
今日はまた昨日とは違う配信がきっと見れるだろう。
私はプリチャンキャストを開く。
元気に見える真っ赤な目。
それが彼女にとっては弱い部分。
でもそんな瞳を輝かせて、元気いっぱい体を動かしてみせる霰に似合う、ポップなワンピース。
世界で1番元気だと言うように、
飛び跳ねる霰を見て感動すら覚える。
(あられ、唯一得意なことお菓子作りじゃない。きっと想いを込めることなんだと思う。プリチャンしている時は苦手な運動も楽しいって思える。それって、家族や友達、この配信を見てくれる皆に、元気なあられを見て欲しいって気持ちを込めれるからなんだよね。これからも頑張れる。もっと色んなことが出来るように…もっと立派になれるように…)
霰の声がプリチャンキャストを通じて聞こえてくる。
決意を明るくはねるような声ではっきりと言う霰の背中を押してあげたくなった。
今日は霰が寝るところを見守って、霰の部屋で眠りについた。