第4話。〜雪永霧雪
やあ!朝だよ。君は霰の想いを知ってどう思ったかな?
だんだんプリチャンがすごく面白いものだって分かってきただろう。
1回1回の配信にいろんな人のいろんな思いが込められている。だから私は見ちゃうんだ。
君にももっとこの世界のことを知って欲しい。
ナレーターさんの気持ちはかなり分かる。
実際私も次は誰を見ようかなという気持ちになってきたのだ。
だろう?よかった。この物語を一緒に見てくれる友人が出来たようで嬉しいよ。
さぁ、今日は誰を見るのかな?
私は次のページをドキドキしながらめくった。
…。
目を開けるとそこは、雪永学園のどこかの教室のようだった。
まだ始業前で、生徒達は、友人同士で話をしたり遊んだりしている。
「わぁ…霧雪くん今日もかわかっこい…」
「銀雪くんも、美しくてかっこいいわぁ…」
「ほんとねぇ…」
「人気だよねほんと」
数人の女子のグループが、そんな話をしていると、見慣れた顔の2人が、自分たちの席に荷物を降ろした。
「ユキナガムセツ ユキナガケ スエッコ フタゴノ オトウトノ ホウ」
「ユキナガギンセツ フタゴノ アニノ ホウ」
私のプリチャンキャストが急に喋りだし、やけに似ている男の子達が双子だったということを、私に教えてくれた。
「霧雪くーん、隣のクラスのイザベラちゃんが、霧雪くんに話があるって!」
「へっ!?ぼ、ぼく?ぎんくんじゃなくて…?」
「うん!霧雪くんみたいだよー」
「おい、むぅ大丈夫か?着いてくか?」
「い…いや大丈夫だよ…行ってくるね…」
そう言うと双子の弟の方は、下を向きながらおずおずと廊下の方へ向かっていった。
ほんの5分ほど経つと戻ってきた。
「どうだった?むぅ…」
「ぼくのことが好きだって…これからも応援してるってだけだった…」
「そっか…気にするなよあまり」
「うん…」
他人からの好意や応援を気にするな…とは一体どういう事なのか…。私には分からなかった。
1日中双子を観察していると、
プリチャンをやっている時の霧雪とはだいぶ印象が違うことは分かった。
あまり笑うことは無く、銀雪の側から離れない。
1つ言えることは、兄の銀雪のことをかなり信用しているのだろうということだ。
特に銀雪以外のクラスメイトと話すことも無く、
授業を終えた霧雪たちは、寄り道もせず真っ直ぐ自宅に帰って行った。
ただいまの挨拶を家族と済ますと、
霧雪はため息をつき
自室に引きこもることにして、とぼとぼ歩いていった。
部屋のベッドの中に籠る霧雪を照らし私のプリキャスは喋り出す。
「モノゴコロツクマエニ ハハオヤト シベツ」
「ハハオヤカラ モラッタ フリフリ オヨウフク ソレモ ギンセツト オソロイ」
「タイセツニシテイタ ケド イジメテクル オンナノコタチ二 キリサカレテ ゼツボウ スル」
「オトコナノニ オンナノフク キテ キモチワルイ ッテ」
それ以上説明しなくても、なんとなく分かったから私はプリキャスを閉じた。
恐らく父親の雪雄さんも、双子の物心着く頃には、仕事で満足に子育てができなかったのだろう。
母親も父親もほぼいない状況で、小さい頃からトラウマを抱えるということは、心へのダメージが計り知れない。
そんな時いつもそばにいたのは、いつだって銀雪だったのだろう。
そりゃ、1番信頼出来るに決まっている。
もぞもぞと霧雪は布団から顔を出し、ブツブツ独り言を呟いた。
「僕も女の子と普通にお友達になって、お話したり、お出かけしたりしてみたいなぁ…ほんとは」
「でもやっぱり、途中で思い出して、具合悪くなっちゃうんだもん…はぁ…」
霧雪は枕に顔を伏せた。
「それに僕…ずうっと好きな人はぎんくんっていうのも相談したい…家族にも言えないし」
「はぁ…」
深いため息を吐ききった霧雪は耳まで真っ赤になっていた。
好きというのは、俗に言う…恋愛対象ということか。
家族に言いづらいと言えばやはりそういうことなんだろうか。
なるほど…本当は女の子とも仲良くなりたいが、仲良くなろうとすればするほど、具合も悪くなってしまうジレンマを抱えている。
その上1番信頼している同性の兄のことを恋愛対象として好きということが、相当心を不安定にしている
ということは私にも分かる。
だんだんとこの5人の姉弟たちを特別に応援したくなる親心のようなものを持ち合わせ始めた私としては、この霧雪の気持ちを知ってしまうと、自分もなにかしてあげたいけど何も出来ないことに胸が苦しくなる。
ただ見ていることしか出来ない。
今は見守っていようと私は決めた。
昼寝をしてしまった霧雪を呼びに銀雪が部屋に入ってくる。
「事務所行くぞー。む……寝てるのか」
すぅすぅと寝息をたてる霧雪の頭を撫で、銀雪はしばらく弟の寝顔を見つめると、体を揺さぶり、霧雪を起こした。
「あぁ…ぎん…くん…おはよ…」
「むぅそろそろ行くから用意しろよ」
「ありがと、ぎんくん」
銀雪は霧雪に声をかけた後も部屋にい続けるようだった。
2人はプライベートの時間は別々に過ごすことはあっても、本当にいつも一緒に居るんだなと思う。
今の双子にとっては
一緒にいることが当たり前。
5人揃って事務所に着くと、
霧雪の顔つきが変わったのが分かる。
今までは、吹雪と霰を見ていたその片隅に、霧雪もいて、そこまで注目していなかったが今なら分かるのだ。
配信直前の霧雪は別人のように輝いている。
オドオドとしておらず、笑顔で胸を張って歩いている。
プリチャンの配信とは、彼にとってのなんなんだろうか。
ステージに立った霧雪は、女の子の前で泣きそうになってたのは想像も出来ないような自信に満ち溢れていた。
5人の中で「カワイイ」がどうやって生まれるか
1番分かっているのが霧雪だと私は思う。
男だとか関係ないと、
彼が着こなすかわいいワンピースのフリルが
微笑みながら教えてくれているような
パフォーマンスに、目が奪われる。
何か目が熱くなる。
(ぼくは男だ。だけどかわいいお洋服は大好き。家族みんながぼくに似合うって着せてくれてるんだ。
女の子になりたいわけじゃない。ただぼくには、かわいいお洋服だって似合う、好きってだけなんだ。僕らしくあること。かわいいお洋服を着れることが自然にできるプリチャンはぼくにとって大切な居場所なんだ…。
それに、1番ぎんくんのかっこいい所を見ながら、パートナーとして隣でステージに立てるっていうのはぼくの生きがいでもあるから。)
日常では、心に様々な悩みを抱えた雪永家の末っ子の想いが、私に届いた。
プリチャンは、自分らしくいれることと、一緒にいたい人と居れる居場所になっていることが分かった。
帰宅後の霧雪は、銀雪の部屋に行く。
「ぎんくん…ごめんね。ぼくきょうはぎんくんとねたい…」
「おう。全然いいぞ。来いよ」
霧雪の想いを知っているのかは分からないが、優しく弟を布団に入れる銀雪を見て、私も安心して、眠りについた。
明日はどんな物語が見れるのだろうか…。