第5話。〜雪永銀雪
目を開けるといつものナレーターさんと話をする場所ではなく、
銀雪の部屋のままだった。
プリキャスを開いて時間を調べると、10分も経っていなかった。
眠ったのに戻れない・・・?
私は疑問を抱いたが、すぐになぜか疑問の答えがわかった。
引き続き、銀雪の物語の世界に取り込まれたのだ。
霧雪はすでに寝息をたてすぅすぅと眠っている。
「むぅ…ぼくはどうすればいい」
銀雪は静かに霧雪に話しかけていた。
「むぅがぼくのことを好きだってずっと知ってる。」
「でもぼくは何もしてやれない。ごめんな」
「むぅはぼくにとって1番可愛くてかっこよくて最高のパートナーだ…」
「これからも一緒にいたい。だけどそれはむぅの思い描いている通りではないんだろうな…」
そうだったのか…。
双子の兄は弟からの好意に気づいていた。
それに応えることはできないが、最高のパートナーとして側に居たい。
それは霧雪にとって嬉しいことではないと銀雪は悩んでいる。
想い合っている双子を見て私はより一層この2人を見守り続けたいという気持ちで溢れた。
銀雪が目をつぶったから私も目を瞑る。
…。
それでも私はいつもの場所には戻らなかった。
しばらくすると私の目の前には、幼い双子が立っていた。
ここは銀雪の夢の中なのか、記憶の中なのかわからないが、どうやら現実ではないらしい。
幼い頃の双子は、銀雪もパーマがかかったような髪型で、今より一層見分けがつかない。
しかし同じ柄のお揃いの服だが、銀雪がズボン、霧雪がワンピースを着ているため、どちらかの判断はつく。
異空間の双子は、どこかの家の庭で遊んでいた。
ありを観察してみたり、けんけんぱをしてみたり、シャボン玉をしてみたり、実に自由に外遊びを楽しんでいる。
そして、そこには双子以外に女の子がもう1人いた。
金髪でロングヘアーのおとなしそうな子だ。
この頃の双子も今と同じく静かで落ち着いている様子だ。
女の子も同じような育ちなのか、双子と同じように大きな声をあげたり、騒がしく動いたりせず、静かに笑い3人で落ち着いて遊んでいる。
3人の会話の中で、女の子がエリーゼという名前で、保育園に通っていることが分かった。
まだ小学校入学前のようだ。
そして場面は変わり、小学校入学式の次の日。エリーゼも同じクラスになり、3人で当たり前のように登校する。
双子は晴れ晴れとした顔で歩き、お揃いのいつもの服を着て学校へいく。
学校の校門に着くと、クラスの女の子達が3人の近くに寄ってきた。
数人の女児は、霧雪を見て笑う。
「どうして、むせつくんは、女の子のお洋服をきているの?きもちわるーい!」
本人達からしてみたらただのからかい。
でも子供らしい悪意のないからかいだって、受け止める側がそう思わないなら、ただの悪口だ。
「なっ…」
霧雪は頼りない声を出した後、泣きそうな顔をした。
「いいだろ!むぅはかわいい服もにあ…」
「たしかに…そうだ…」
「う、うわあああああああああああ」
銀雪は確かに、霧雪をかばうため、女の子達に反論した。
その隙に霧雪の服をハサミで切り裂いたのは、他でもないエリーゼだった。
霧雪は家の方向に逃げるように走って戻っていく。
気持ち悪いと言った女子達は、さすがにやばい状況だと悟ったのか、自分たちの教室へ向かっていった。
「おい!エリィなにをしてるんだよ!僕達の1番大切な服なんだぞ!」
「ご…ごめんなさい…。霧雪くんもかっこいい服を着たら素敵だと思って、フリフリの部分を切ろうとしたの…嫌な気持ちになると思わなかった…」
「エリィ…この服は、死んでしまったお母さんが僕達に残した最後のプレゼントだったんだ」
「そ…そんな…取り返しのつかないことをしてしまったのね…私…ごめんなさい…霧雪くん…ごめんなさい…」
「むぅは、誰よりもこの服を大切にしてるから、かわいい服が好きになったんだ。かなり傷ついてると思う。それに…むぅはエリィのことが大好きだから、余計に辛くなってるかも…」
「ほんとうにごめんなさい…」
「一応エリィの気持ちは伝えておくけど、仲直り出来る保証はできない。僕も家に帰る!」
銀雪は振り返ると全速力で走った。
エリーゼは落ち込んだ表情で下を向いていた。
「むぅ…ごめん。まもってあげれなくて。」
走っている銀雪の心の声が聞こえてくる。
私は霧雪の様子が気になり、銀雪より一足先に雪永家に向かった。
「ぼく!もう!がっこうにいかない!!!」
リビングで霧雪は、号泣し雪雄に抱きついていた。
「霧雪どうした!?服…服を破かれたのか!?」
雪雄は霧雪を優しく抱きしめ、なだめてはいるが、事態を把握出来てないようだ。
霧雪はしばらく泣き叫び、落ち着くと目をつぶって雪雄の膝の上でウトウトしている。
ひどくショックを受け、疲労も大きかったのか、雪雄がベッドに寝かすと、間もなく霧雪は眠りについた。
銀雪が息を切らして帰宅する。
「お父さんごめんなさい!むぅを守ることが出来ませんでした。ごめんなさい!!」
「落ち着け銀雪…何があったか説明してくれるか?」
「その服をクラスの女子が女の子の服を着て気持ち悪いと言って…真に受けたエリィが、フリルの部分をハサミで切ったんだ。ただ…エリィは本気でかっこいい服にしようと思っただけで悪気は無かった…。でもむぅは、エリィが大好きだし、一番大切にしてた服を切られたことでショックを受けてしまったんです。」
「ありがとう銀雪。事情は分かったよ…今夜家族会議をしよう」
その日の夜に家族全員が集められ、会議が始まった。
「みんなには秘密にしていたんだが、パパは島を買ったんだ。そこでパパは学校を経営しようと思う。いい島にしたくて天候を自由に変えれるシステムを作ったんだ。霰の体調面を考えてね。日差しを弱めることが出来る。」
「ぱぱ!ありがとう!あられもその島住みたい!」
「いいよ!おいで。他の4人はついてきたくないならここに残っていい。友達や学校のこともあるだろうから、無理しなくていいんだ。みんなどうする?」
「ぼ…ぼくは行きたいな…ぱぱの学校に通いたい」
1番最初に霧雪は声を上げた。今日あった出来事によって意思が固まっているように聞こえる。
「むぅが行くならぼくだって行くよ」
すぐに銀雪も行くことにしたようだ。
「お父さん。私の答えは最初から決まってるわ。弟達を守るのも私の仕事よ。それにお父さんの学校の経営の手伝いをしたいわ」
吹雪は双子が行きたいと言ったことで決めたようだ。
「わかった。霧雪、銀雪、パパの学校に通って欲しい。吹雪は通いながらパパの手伝いをよろしく頼む。雪華はどうする?」
「私も行こうかな…ふぶきちゃんが無理しないようにサポートしたいし、あられの体調も心配だから」
「それじゃ決まったな!雪永家全員でまた1から頑張っていこうな!みんなよろしく頼む!」
(そうして、僕たち家族全員揃ってこの島に来た。僕はその時から、むぅをこれから先ずっと守って行くって決めたんだ。)
…。
目を開けると、そこはsnow family の事務所内で、ちょうど銀雪のライブが始まるところだった。
真っ直ぐで真剣な顔。姉弟で1番無愛想だけど、銀雪なりの心が感じられるパフォーマンスに感心する。
(もう霧雪をあんな気持ちにさせたくない。僕はあの日から霧雪を守るって決めたんだ。
誰よりも大切なパートナー。霧雪の想いには応えられないけど、僕は僕なりに霧雪を信じて隣にいる。
プリチャンは、僕たちが1番僕たちらしくいれる場所。スカートやフリフリを男だってきたっていいんだ。
普段しないダンスも楽しんでいいんだ。僕はそれを霧雪が楽しんでいるならそれでいい。)
プリキャスは、銀雪の想いを私に伝えてくる。
今ならその気持ちの重さがわかった気がする。
これからもこの双子を…いやこの家族を応援していきたいと感じた。
私はゆっくりと目を閉じた。
…。